New!【適応力皆無客とマニュアル店員】コントストーリー 作:河野竜太
某ファミレスに入店する男、鈴木拓也。36歳独身。
時刻は13時23分。昼のピークタイムが去ろうとしている。
20代女性店員「いらっしゃいませ。何名様ですか」
鈴木「一人。見たらわかんだろ大体」
店員「大変失礼しました」
鈴木「本当だよ。独身ひとり身をイジリやがって…」
ブツブツ言いながら案内された席に腰を下ろす鈴木。
店員「お冷でございます。ご注文お決まりの頃お伺いいたします」
鈴木「…」
〜3分後〜
店員「ご注文お決まりでしょうか?」
鈴木「おせぇよ」
店員「はい?」
鈴木「ご注文お決まりの頃って言ったろうが」
店員「大変申し訳ありません」
鈴木「大体よ、俺が注文決まったってどうやってわかんだよ」
店員「…」
鈴木「俺あんたが向こう行ってすぐ決まったんだよ。それなのに全然来なくてよ…ほら見てみろ、3分も経ってるよ!」
店員「一応私もお客様が決まったかどうかご様子を窺ってはいたんですけども…」
鈴木「うん、で?」
店員「お客様、振り向いたり一度もされなかったので…」
鈴木「うん、そうだよ。なんでか分かる?君がお決まりの頃って言ったから」
店員「はぁ…」
鈴木「なのに来なかったよね?おかしいな」
店員「失礼ですけどお客様、クレーマーということでよろしいでしょうか?」
鈴木「は?」
店員「クレーマーの場合、私ではなく、上の者を呼ばなければなりません」
鈴木「待てよ。クレーマーでしょうかって質問おかしいだろ」
店員「お客様がお怒りのご様子なので」
鈴木「怒ってるよ、君のせいでね」
店員「では、お呼びします」
鈴木「え?おいおい」
店員「(無線)31卓クレーマーの出現です。ご対応お願いいたします」
鈴木「おいなんだ出現て。ポケモンか俺は!てか客の前でクレーマーとかいうなよ!」
チーフ「お待たせしました。クレーマーの方ですか?」
鈴木「クレーマーじゃねぇよ!それを本人に聞くなっつってんの」
チーフ「クレーム内容をお聞かせ願いますでしょうか?」
鈴木「だからこの子がね!注文お決まりの頃に来るっつったのに、全然来なかったわけ!」
チーフ「ご注文がお決まりのそ振りは?」
店員「ありませんでした」
鈴木「そ振りだけで確認してんの?」
チーフ「はい。その間に呼ぶこともできたと思いますが」
鈴木「なんだよ、随分と挑発的じゃねぇか」
チーフ「お言葉ですが、お客様からご注文したいという意思がなければ我々もそれを汲み取ることは致しかねます」
鈴木「じゃあタラララララ〜ラララララ〜♫ってなるやつ各テーブルに置けばいいじゃねぇか!」
チーフ「それはファミリーマートの入店時の音楽ですね」
鈴木「うるせぇ!」
店員「チーフ、この場合はどうすればいいのでしょうか?」
チーフ「そうだね…とりあえず謝っとくか」
店員「分かりました。とりあえず謝ってみます!」
チーフ「うん」
店員「この度は、大変申し訳ございませんでした」
鈴木「ふざけんなよ、全部聞こえてんだよ。アンタもおかしいよ!とりあえず謝っとくかって」
チーフ「問題が起き、クレーマーが出現した場合、当店のマニュアルに従ってとりあえず謝るという規定がございます」
鈴木「そのマニュアルがおかしいな。マニュアルにクレーマーの出現って書いてんのかよ」
店員「ご注文お伺いいたします」
鈴木「どんなタイミングで聞いてんだよ。なに一回謝罪入れたからもうチャラみたいになってんの」
チーフ「では引き続き、彼女がクレーマー様の注文を承ります。」
鈴木「おい!どこ行くんだよ!チーフ!…なんだクレーマー様って、ナメてんのかアイツ…」
店員「お客様、ご注文をお願いいたします。」
鈴木「ふざけやがって…じゃあこの【癒しのとろ〜り濃厚コーンスープ】と…
おい、何笑ってんだ」
店員「いや、クレーム入れた後に癒されようとしてるんだと思って…つい」
鈴木「お前ぶっ飛ばすぞ。いいだろ別に!」
店員「あと正式名称で言っちゃう所もちょいキモ感あって…」
鈴木「なんだちょいキモ感って、客にちょいキモとか言ってんじゃねぇよ!書いてあんだろココに!」
店員「異常ですか?あ、間違えた。以上ですか?」
鈴木「おいどういう意味で言ったんだ?イントネーションおかしかったよな?あとこれ!」
店員「【シェフの気まぐれハンバーグ】ですか?」
鈴木「ちげーよその横だよ!てかどういうことなんだよ気まぐれハンバーグって」
店員「シェフが手抜きで作った肉の塊です」
鈴木「誰が食うんだよそんなの。もっと言い方あんだろ。なんでもダイレクトに言う癖気をつけろ。店的に良くないぞ。」
店員「お気遣い心いります。こちらの【臆病者に精をつけるチキチキ南蛮コーン添え】でよろしいですか?」
鈴木「これもツッコミたいとこはあるけどな。それでいいよ」
店員「担当シェフはどういたしますか?」
鈴木「は?」
店員「大和田シェフ、近藤シェフ、中園シェフがおります」
鈴木「誰だよそいつら!しらねぇよ。誰でもいいよ作れんなら」
店員「申し訳ありません、こちらお選び頂かないと…」
鈴木「大和田に作らせろ!」
店員「かしこまりました。この店一番の巨漢です」
鈴木「なんなんだよその紹介はよ、いるか?今そんな情報」
店員「多少の不潔感はございます」
鈴木「なんでそんな奴が厨房で腕振るってんだよ!料理させんなそんな奴に」
店員「ではご注文を蒸し返します」
鈴木「繰り返せ馬鹿野郎」
店員「【癒しのとろ〜〜〜り濃厚コーンスープ】が1点」
鈴木「お前わざと言ってんだろ」
店員「臆チキが1点ですね」
鈴木「何略してんだよ急に。ファミチキみたいに言ってんなよ。印象変わっちまうだろうが」
店員「担当シェフが大和田シェフですね」
鈴木「そいつもう変えらんないの?嫌なんだけど」
店員「難しいですね」
鈴木「だってまだそれ送信してないんだろ?なら変更できるだろまだ。…まぁいいやもう」
店員「でもクレーマー様にはお似合いだと思いますよっ!」
鈴木「どういう意味だおい。あとクレーマー様じゃねぇぞ俺は。鈴木ってんだ」
店員「では失礼しまーす。てかコーンスープ頼んでさらにコーン添えとかどんだけコーン好きなんだよ…」
鈴木「おい聞こえてんぞ!いいだろ別に…」
厨房の奥で店員がチーフと喋っている。
チーフ「どうにかなった?」
店員「バッチリ手懐けました」
鈴木「何言ってんだアイツ…」
〜10分後〜
店員「お待たせしました。臆病チキチキと癒しのとろ…ぷっw w w」
鈴木「テメェなに吹き出してんだコラ。嫌なとこだけ切り取って略すなよ」
店員「ごゆっくりどうぞ!」と雑にプレートを置いて走り去る。
鈴木「逃げやがって…あ、髪の毛入ってる!きったねぇな…」
〜10分後〜
鈴木「フゥ〜…不潔巨漢シェフ大和田の異物混入は腹立ったけど味はまぁなくはないって感じだったな」
店員「お食事はお済みですか?」
鈴木「あ?おう…。あ、大和田のぶっとい毛が3本も入ってたぞ」
店員「サービスです」
鈴木「トッピングした記憶はねぇな」
店員「あ、食事が済んだらお帰りください」
鈴木「今食ったばっかだろ」
店員「新しいお客様の席空けたいんで」
鈴木「他に席いっぱい空いてんだろ。さっきごゆっくりって言ってたし」
店員「言葉の綾です」
鈴木「使い方合ってんのかそれ」
店員「お会計はあちらです」
鈴木「くっそ…」
鈴木、急かされながらトボトボ会計に向かう。
鈴木「はい、いくらだっけ?」
???「1700円です」
鈴木「はいよ。…ん、あんたデケェな」
???「ありがとうございます」
鈴木「その汚い茶色いシミにその円筒形の白帽子、そして太くちぢれたヒゲ…」
???「…?」
鈴木「お前大和田だろ」
大和田「はい」
〜完〜
【高架下にて】コントストーリー 作:河野竜太
営業の仕事が終わり、俺と上司は和食屋で昼食を済ませ会社に戻るため社用車に乗った。
二人の乗る車が電車の走る高架下に差し掛かった。
ちょうど上を電車が走る。
上司「電車うるせぇな…」
俺「うるさいっすね…」
上司「え?」
俺「電車がうるさいですねって」
上司「ごめん、なんにも聞こえねぇ」
俺「何も聞こえないですか?ほんっとうになにも聞こえないんですね!?」
上司「・・・」
俺「バーカ!あんた前から思ってたんだけどさ、ちょっとは身だしなみに気を遣えよ」
車が前に進み静かになる。
上司「…おまえさ、今ばかとか言ってなかった?」
俺「えっ、僕ですか?言うわけないじゃないですかそんなの、大人ですから僕も」
上司「本当か?じゃあなんて言ってたの?」
俺「今日も暑いですねって」
上司「顔がバーカって顔してたけどなぁ…」
俺「そういう顔なんですよ元々」
上司「ねぇよそんな顔」
そしてまた同じような高架下に差し掛かり、電車が通る。
俺「バーカ」
上司「やっぱバカって言ってるな!」
車が前に動き、
上司「おい!お前やっぱバカって言ってただろ」
俺「違いますよ、ウチの会社昼食代が経費で落ちるのいいですねって言ったんです」
上司「ウソつくなよお前。そんな文字数口動いてなかったわ」
俺「口の動きがそう見えたのならごめんなさい」
上司「絶対社長チクるからな」
俺「いいですよ別に。そんなの揉み消されるだけですから」
上司「こいつ…」
俺「僕は社長にとっての甥であり、会長にとってのかわいいかわいい孫ですから」
上司「クソが…。あとな、お前さっき昼食代が経費で落ちるとか言ってたけどそれお前だけだからな」
俺「そうなんですか?」
上司「そうだよ、なんならお前と昼メシ食う時は俺のポケットマネーから出させられてんだよ」
俺「それくらいいいじゃないですか、年収1000
万近く貰ってるんですから」
上司「あのな…俺にも家族がいるんだよ」
俺「ぼくにだって家族ぐらいいますよ」
上司「そういうことじゃねんだよ、お前結婚してねぇだろ」
俺「ケマハラやめて下さい」
上司「なんだそれ」
俺「結婚マウントハラスメントですよ」
上司「すぐ新しいの作んなよお前。お前みたいなガキがいるから俺らが苦労するんだよまったく…」
俺「でも森下さんもこれしか仕事してないのにこんなにお金貰えるんですからやっぱり高待遇ですよウチの会社は」
上司「なんでこんな会社入っちまったんだ…いや、コイツさえ新入社員で入ってこなければ…」
俺「やっぱりバカですね」
上司「サラッとバカとか言ってんじゃねぇよ、オレお前の親と同じくらいの歳だぞ」
俺「お、着きましたね。じゃあ先戻ってるんで」
上司「クソガキが…」
終
【円満乖離】作:河野 竜太
海を見つめながら片瀬江ノ島の浜段に座る二人。
女「芸能人の事務所の円満退社とか円満離婚とかってさ、ふっ笑 アレなんなんだろうね」
男「な!そんなのあるわけねぇよ」
そんな和やかな空気をさらっていくかのように二人を風が包む。
本題に入るというように海の向こうを見ながら女が重い口を開く。
女「…じゃあさ、最後にお互いの嫌いだったとこと、好きだったとこ、ひとつずつ言い合おう?」
男「…わかった」
男も同じく海の向こうを見ながらそう答えた。
女「じゃあ私からね」
男「…うん」
女「嫌いだったとこは…嘘つくとこ」
男「…」
女「好きだったとこは…私の事ちゃんと好きでいてくれたとこ」
女の声はなるべく感情が出ないよう押し殺しているのか、声が震えているのが男にも耳から伝わっていた。
男「…」
女「はい、次そっち」
男「…好きだったとこは………ぜんぶ」
女「…」
男「…」
女「ダメ、一個って言ったじゃん」
男「一個だよ」
女「…?」
男「ぜんぶが一個」
女「…じゃあ嫌いだったとこ」
男「…無い」
女「…」
二人の空白を埋めるようにまた海風が吹く。
女「…なんかわたしが嫌な奴みたい。フェアじゃないこんなの」
男「…」
女「ねぇ、なんで好きなとこから言ったの」
男「オチがつまんない方がいいかなと思って」
女「ふざけてんの?」
ムキになった拍子に男の目を見てしまう女。
男「なんだよ…せっかく笑って円満に別れるチャレンジしてみたのに」
女「…」
男の目は冗談を言うのが精一杯かのように見えた。
女「…帰ったら写真全部消す。LINEも消す」
男「大変な作業だ…たっくさんあるもんな」
女「…(切り替えて)でも消したらiPhoneの容量めっちゃ増えるよ」
男「たしかに。そしたらちがう写真いっぱい撮れるな!」
女「何撮んの?」
男「ん〜風景とか。…誰も映ってないけど笑」
女「…」
女はこれ以上話すと、本心が男との思い出と結びついてしまうことを恐れ立ち上がった。
女「そろそろ行くね」
男「おう」
女はゆっくりと背を向けて小さい歩幅で歩き出す。
数歩歩いて止まり、ゆっくり確かめるように後ろを振り返る。
男はその場で背を向けて立っていた。
男の肩が小刻みに震えているのが分かる。
女、衝動的にその背中に引き寄せられるように走りかかるも苦しそうに目を瞑って足を止め一息つく。
そして再度背中を見せ、涙をこぼしながら足早に去っていく。
人を好きになる事も、嫌いになる事も簡単ではない。
でも、またヨリを戻してもきっと同じことの繰り返しになる。二人にはそれが分かってた。
きっと苦しいのは今だけだ。
女が抑えきれていない泣き声を抑えながら歩く。